教育最前線 - 国内の塾におけるEdTechの価値事例「練成会グループ 3.14コミュニティ」編
日本国内の教育においてEdTechはどんな価値があるのか、塾の皆様にインタビューしながら探っていくシリーズの第3回。今回は、北海道・東北に教室を展開する練成会グループの個別指導部門「3.14コミュニティ」を統括する吉田厚二取締役副社長と高校部責任者の松田彩常務執行役員を中心に、atama+ EdTech研究所上席研究員の森本がお話を伺いました。
一人ひとりに最適な価値ある学びを
3.14コミュニティ(以下3.14)は20年以上の歴史を持ち、現在は札幌市内で51教室を展開している。創立以来、地域のトップ高や難関大学にも多くの合格者を輩出し、進学塾として地域から支持されている。
そのような3.14だが、EdTech導入に至った背景には、生徒の未来に対してもっと大きく安定した成果を上げたい、さらには学習指導を越えた教育価値を提供したいという思いが強まってきたことがあると吉田副社長は語る。
吉田厚二 取締役副社長
「生徒たちには、講師の言う通りに漠然と学習するような受け身の姿勢ではなく、主体的な姿勢で取り組んでほしいのです。目標に向かい努力する中で、自分と向き合い、自立していく。最終的には、社会に出た時に活躍できる力も身についている。このような学習に導いていくことが教育機関としての3.14の役割だと考えています。通過点としてテスト結果の向上などが存在していますが、それらをこなすことが真の目的ではありません。目標はあくまで大学受験合格、目的は人間的成長、このことを高校生はもちろん、小学生中学生であっても同じ言葉で伝えています」
受験を通じて人生を学ぶことの大切さを子ども達に教えたい、そのためにも学習を自分ごとと捉え自律性を高めて欲しい。もっと生徒の主体性を伸ばしたいという理念のもと、2019年にatama+の導入を決定、2020年から小中高生への全面導入となった。
生徒が自ら”勉強の仕方”を考えるようになる指導を目指して
3.14の高校生ブランド「ブレインズ・ジム」では、atama+を導入してから2年、2022年度入試において北海道大学の合格者数および合格率が過去最高となった。
「中学生も高校生も、目を見張るような成績向上をした例が多く出ています。到達度が可視化されるようになったことで生徒のやる気が上がったことに加え、弱点や苦手を早い段階で克服できたことが大きいと思います。例えば今年の受験前、この時期には完全に理解しておいてほしい基礎的な内容の質問が減りました」
このような変化の理由について、生徒の学習への向き合い方が変化したことが大きいのではないかと松田常務は語る。
「以前の1対2で指導していた頃の生徒は、問題を解いていて分からないことが出ると講師に解き方を質問していました。しかしこれを繰り返していると『分からなかったら先生に聞けばいい』となってしまいがちで、自ら学ぶ姿勢の育成にはなかなか繋がりませんでした。これが現在は、『どうやったらこの問題を解く力がつきますか?』という質問に変わってきています」
この背景には、講師から生徒へのアプローチが関係している。講師は教務指導よりも、生徒と一緒に生徒に合った勉強の仕方を考えること、最適なアドバイスをすることに注力するようになったのだ。
松田彩 常務執行役員
指導歴4年目の講師に変化について話を聞いた。
「授業がatama+に一本化されたことで、講師の中で『どのように勉強の仕方を伝えればいいのか』というテーマで話す機会が増えました。生徒に合った勉強の仕方を講師たちから具体的に伝えることで、生徒も自分なりの勉強方法を真剣に考えるようになります。僕たちも勉強方法を押し付けるのではなく『どうしたらできるようになると思う?』と生徒と一緒に考えるようにしています」
授業では、まず冒頭に講師が生徒全員に対して勉強方法の訓話を行う。自らの体験談など生徒が身近に感じられる話題を中心に、時には自分自身で作成したポイントを記載したプリントを配ることもある。
授業中は教室全体を見渡して優先的に声をかける生徒を決め、座っている生徒の目線に合わせて膝をかがめながら話しかける。声掛けの内容は、問題の解き方を教えるのでもなく、よりよいノートの取り方などの学習方法を強制することでもない。講師一人ひとりが大切にしているのは、生徒と一緒に能動的な学習スタイルをつくり上げることだ。
「例えば、同じ講義動画を2回視聴している生徒がいたとします。その生徒はおそらく、講義動画の内容を十分に理解できていないのだと思います。僕たちはそういった場面に出くわした場合、動画の内容を解説したり、ノートの取り方を強制したりはしません。『一度で理解するにはどうやって学習したら良いと思う?』と生徒に話しかけます。もし講義動画の内容を一度で理解することができれば、学習進度は2倍になります。学習進度は受験勉強においてとても重要な要素です。指導を通じて、生徒自らが学習方法を決める力を養うことを大切にしています」
日々の講師とのやり取りを積み重ねることで、生徒の行動も変わっていく。
また、atama+導入以前には生徒の学習時間や正答率、モチベーションは目にすることができず、講師の経験や勘に頼らざるを得なかった。こうした学習データをatama+では講師がいつでも確認できる。
「目にみえなかった情報と目の前の生徒を正確に繋ぐ役割をテクノロジーが担ってくれている」と松田常務は語る。
講師が生徒一人ひとりの様子を正確に掴み、コミュニケーションをとれるようになったことで、成績向上だけでなく退塾数も減少した。また、中学を卒業後、高校生になっても継続して通塾する生徒も増えている。中高で一貫して同じゴールを見据え、同じ教材、同じスタイルで学習できることが評価されているとのことだ。
人財輩出機関として関わる全ての人を幸せにしたい
atama+を導入後、生徒たちにとって授業の時間は、それぞれが自分の目的や目標に向かって最適な学習を能動的に行なう時間となった。それに伴い生徒の学習を支える講師の重要性が増していると吉田副社長は話す。
「atama+では不得意と向き合いながら学習することもあるので、子どもたちにとっては必ずしも楽しいだけの時間ではありません。しかし、どんなレベルの生徒さんでも自分の不得意を乗り越え得意を伸ばしていけば確実に学力は上がります。そのために私たちは子ども達が学習を通して、目指した成果を出すために全ての力を注ぎますし、そのための技術を備えていかなければと感じています」
atama+は、AIを活用した生徒一人ひとりに最適な教材の提案と、講師による学習の伴走の両輪で生徒によりよい学びを提供する。3.14では学習の伴走を多くの学生講師が担っているが、講師の採用時に必ず話している内容と、その理由について伺った。
「講師には、自分自身が社会に出たときに役立つ力を身につけてここを巣立っていってほしいという話をしています。それは塾や予備校としてではなく、人財輩出機関として事業を運営しているからです。講師も、生徒の成長に向き合うことで共に成長してほしいのです。私にとって生徒も講師も社員も財産です。関わる全ての人が成長し、幸せな人生を歩んでほしいと考えています」
実際に3.14で学び、講師となって戻ってくるケースも多い。社会人になる巣立ちの瞬間に感謝を伝えられ、この仕事の価値の大きさを噛みしめることも多いという。これからも、社会に出たときに役立つ力を身につけた生徒や講師が、3.14から多く輩出されていくだろう。
【5つのQ&A】EdTechの導入でどう変わる?
- Q EdTech導入の際に重視したポイントを教えてください
- A 製品の作り手を重視しました。EdTech導入はゴールではなく、その先も生徒さんに提供し続けるということですから持続性が大切になります。そのため、製品の作り手が導入後も製品を磨きあげ続けてくれるか、使いこなせるまでフォローしてくれるかを重要視しました。
- Q 導入してみて、講師の方の反応はいかがでしょうか
- A 講師は口をそろえて、生徒と勉強の仕方を一緒に考えるようになったと言っています。生徒のために本気になれる講師の採用と育成にこれまでも取り組んでいましたが、その講師が自発的により良くatama+を活用できる方法を日々考えています。
- Q 生徒はどのような座席で学習をしていますか
- A 生徒さん同士がお互いを意識しながら勉強に取り組めるよう、座席は円形にしています。こうすることで、他の生徒さんの学習内容が少し分かるので、ライバル意識や仲間意識、またやる気の相乗効果で良い雰囲気が生まれています。
- Q 定期テスト対策時の運用方法について教えてください
- A 2022年度より中学生の定期テスト前は対策期間としてatama+を受け放題にしました。設定した目標を達成するまでに必要な時間は子どもによって差がありますのでこの運営にしています。このように運営自体も日々工夫を続けているところです。
- Q 最後に、 教育業界とテクノロジーの未来についての展望をお聞かせください
- A 他業界を見ると、テクノロジーが業界の転換を促してきました。教育業界においても同様に、AIは指導現場で十分通用するレベルになっていますから、これから人には人にしかできないことが教育現場で求められるようになると考えています。弊社でもより良い活用を日々模索し、磨いているところです。